「あ、酔うた/\、五勺の酒に……
一合飲んだら…………」
[#ここで字下げ終わり]
と唄うかと思うと、
「こら! 嬶さ! 六平の嚊あ! 貴様何しに来た?」といったり、「やあ、小釜の狐、赤狐! 欺されたら欺して見い。こら、貴様等に……馬鹿狐奴が、へむ。」などと出放題の事を言ったりした。
斯んな風で村の入口まで一緒に来たが、それからは六平の女房に先に帰れと言って承知しなかった。一緒に帰っては間男でもしたと思われるから不可《いけ》ないって戯談を言って、如何言っても動かなかった。こう言つて二人が争って居る所へ六平が行った。六平も種々にすゝめて一緒に連れて帰ろうとしたが、新道の橋の上に坐って居て如何しても動かなかった。多分迎いに来て貰ったと人に思われるのが気に入らぬのだろうと皆が言った。浅七が提灯《ちょうちん》をつけて裏口から出掛けたのを、母は呼止めてやめさした。十分間も経ってから父は帰って来た。
「帰ったぞ、おい旦那様のお帰りやぞ。」と上機嫌に裏口から入って来た。
「お帰り。」
と母も浅七も同時に言った。浅七は庭へ下りて洗足の水を汲んだ。
「さあ洗え。」
と父は上り
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