お前はまた何で浜通り来なんだがいの?」と恭三の母は女房に同情を寄せた。
「私もそう思うたのやれど、山王の森まで見に行ったもんやさかい、あれから浜へ戻るのが大変やし、それに日も暮れたもんで内浦通来たのやわいね。」と当惑したという樣子であった。
「そりゃそうと、うちの親爺に遇わなんだかいの。」
「あのう、神輿様が町尽《まちはず》れに揃わっしゃった時ね、飛騨屋の店に権六の親爺様と一緒でござったが、それから知らんなね。」
 六平は引返して女房を迎いに行って来るから子供を暫く見て居て呉れと頼んで行った。三人の子供は恭三の家へ入って炉の傍で土産《みやげ》の饅頭《まんじゅう》を喰い始めた。六つになる女の子が餡《あん》がこぼれて炉の灰の中へ落ちたのを拾って食べた。恭三は見ぬ振りをして横を向いた。
 三十分程たって六平は女房と一緒に帰って来た。恭三の父はまだ帰らなかった。併《しか》し六平の女房と村の入口まで一緒に来たことは女房の話で分った。
 六平の女房が、富来の町から八町程手前の小釜の森の下まで来た時、恭三の父は只一人暗がりに歌を唄いながら歩いて居た。もう此時分は祭見物に行ったものは大方帰って了って、
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