た。もすこしで常念の登りにかかるのだが、ここへくるまでの予定時間はとうに過ぎて、予想は裏切られ、これからの登りに要する時間の予想ができなくなった。雪も止まぬし、風さえ強くなってきたので、このまま登っても常念の小屋に入れるかどうか疑問であり、一度も通ったことのない中山峠もあるので、ついに引返してしまった。僕が一昨年の十月十六日に常念の肩へ登ったときは雪の降っている日ではあったが、まだ夏道がわかるので大して迷わなかった。しかしそのときはズッと下の尾根に登ったから旧道を通ったのだろう、崩れたところがあって困った。また昨年五月二十七日はズッと奥へ入ってしまい、最後に谷が四つに分れていたので、右の一番大きな雪渓を登った。そのときは霧が巻いていてどこを歩いているのかわからなかったが、山の頂上で三角標石を見つけ、初めて横通岳に登ったことがわかった。その後今年の三月三十一日にここを通ってみた。このときも雪が降っていて見通しがきかなかった。谷が狭くなって川が完全に雪に埋もれてから左側の小さい尾根の根元に常念道と書いた布が枯木に結びつけてあった。これを過ぎてすぐ左から入ってくる小さい谷を登ったら、運よくこ
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