らかの理由で休むだろう一年の五、六日を、私はただ山登りに利用するというまでなのである。日曜と休日をいかに組み合わすべきかは、従って、私の山行の企画における最も重要な鍵点である。
 山行の経済はまた私にとって相当の問題を提供する。しかしこれは他人の考えるほどには私にとって問題ではない。私は要するにごく簡単なのである。山よりほかに金の費い途を知らないのだから、それに、私の山行ではガイドやポーターといったものにいささかの支払いもなくてすむし、食糧にしろ他の道具にしろ普通の人から見ればごく簡単なものでよい。
 私はしばしば山に登った。が、多くの人々とともに計画し、登山したことははなはだ稀だ。私には独りで登山しても充分の満足が得られるのだし、殊更に他の人を交えてお互いに気兼ねし合う必要はないのだから。
 私はしばしば山に登ったし、また今後も登って行きたい。そしてとにかく私は信じている、山は、山を本当に愛するものすべてに幸を与えてくれるものだと。

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 今、AとBの二人が、ある氷と岩との殿堂を攀じていると想像し給え。Aは百戦功を経たエクスパートであり、Bは初めて氷にアックスを揮うビギナ
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