中ブナの木も樹氷で綺麗に飾られていますし、ボサも殆んど雪の下なので気持よく歩けました。頂上には三角点の台ができています。去年の春登ったときはありませんでしたから再度測量しているのだと思われます。頂上は木がないので、雪がクラストになってカンカンです。ここへ着いたのは午後二時、雪のないときに比して、三倍以上も時間がかかっています。頂上の眺望は雪があるため一層雄大で、なんといっても県下第一の山です。帰りは同じ路を引返す予定でしたが、東尾根が楽そうなのでまっすぐこれを下ることにしました。海抜一一〇〇メートルくらいまでは割合楽でしたが、それからはボサが多く、スキーが下手なのでなかなか時間がかかりました。最後に尾根から別れて、奈良尾というところへ下る谷へ入りましたが、これはひどい谷で、絶壁のところがあったりして、大変苦しみ空腹と疲れでフラフラになって村へ下りたときは真暗でした。この村の農家に入ってめしを食い、やっと人心地がつき、午後九時大久保へ帰りましたところが、私の帰りが遅いので宿の人が大変心配し、村人に峠の方へ探しに行ってもらっているとのことでした。なんという親切なことでしょう。私はほんとうに
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