にいたり、荷物自転車に乗って韮崎に向った。そして私の乗った汽車は午後九時頃駅を離れて行く。私はああ南アルプスよさらば、また会う日までと泣かずにはいられぬくらいだった。私は今振り返ってみるにかかる長いコースを、ただ一人十日余の食糧を持ち、しかも随分迷い廻ってなお八日くらいで縦走し得たということは、神のお守りかまことに感慨無量で淋しさをさえ感じた。
[#地から1字上げ](一九二七・九)
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山行記
北アルプス縦走
私は八月七日から高瀬入―烏帽子小屋、三ッ岳―五郎岳―赤岳より水晶山と赤牛岳へ往復、鷲羽岳―三俣蓮華小屋、三俣蓮華岳―中ノ俣岳―上ノ岳小屋―薬師岳ー五色ヶ原小屋、針ノ木峠―大沢小屋、扇沢登り鹿島槍ヶ岳―八峯、五竜岳、八方尾根下り四ツ谷へのコースを一人でやりましたが、南アルプスに比して人のいる小屋が多く大分楽で雪もあり眺望もよく面白い山行でした。しかし八月であったためか五色ヶ原の針ノ木峠道の外、登山者には一人も会いませんでした。私のように変なコースを一度にやる人はなく赤牛岳でも便利が悪いためか、今年はただ法政大学の連中二人と私だけしか行かなかったようです。
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