いて風も強いので、少し休んで午前九時小屋を出発した。荒川岳へ取付き少し国境線より東によったガレをまっすぐ登り、国境線へ出で縦走して御料局三角点のある前岳へ登る。もう霧は晴れて富士山をも見ることができ、眺望雄大、後方には赤石岳―聖岳―兎岳―大沢岳等高く聳えて昨日の縦走を思いては淋しささえ感ずる。荷物を置いて荒川岳へ向う、前には、東岳高く聳えてどこから登るのか見当がつかぬくらいである。北方に塩見岳―仙丈岳―駒ヶ岳―間ノ岳―農鳥岳等互いに譲らず、高く聳えているのを見ては痛快と叫ばずにはいられぬ。海抜三〇八三メートル二の荒川岳の絶頂へ午後十二時三十分に着いた。なお進みて登り、海抜三一四六メートルの赤石山脈最高峰東岳の絶頂へ着いたのは一時三十分であった。御料局三角点と小さい祠のような物があり、数百歩にして万次小屋にいたるとの立札がある。十二日早大山岳部の連中が登ったと書いた名刺があった。引返して荒川岳を越し前岳へきてみると、長野県庁の人々が高山越えをしてやってきた。私はこの大絶壁を有する前岳で、赤石三山と別れて淋しく国境線の尾根を下って行く。六町くらいきてから国境線を右にそれ北の方へまっすぐガレ
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