ていたのであきらめてそこへ杭を打ち尾根を下って行った。ところが下ってみると尾根が違っていて谷へ下ってしまっている。そこでこの谷を登って本尾へ出て三角点を探したところが違っていたのでまた鷲羽へ向って登り、頂上付近を探しついに三角点を見つけた。このときの嬉しかったのは氷ノ山に道があったとき以上だ。一番高いところではないがこれが兵庫鷲羽俚称三ツヶ谷の頂上海抜四〇九〇尺の三角点だ。ときに十二時過ぎ、予定と狂うこと三時間以上、杭を取りに行ってここへ打込んだときは午後一時、白馬俚称仏ノ尾へ登ればいかにしても今日中に駅へ出られそうになく三角点もないので、ついに思い切って大きな雪渓を辷りつつ下り佐坊へ出で、鍛冶屋から芳滝を通って小長辿に行きここから八田村へ越す峠へ登って行く。肥前畑へ下る前に眺望開けて扇ノ山と立山すなわちブナの木の尾根あの雄大な高原が見える。去年あの山中を歩き廻ったかと思うと感慨無量、しばし見入らずにはいられぬ。黒部川を下って国道を蒲生峠に登り荒れた道を塩谷に下り、岩美駅へ午後九時半まで歩いた。午後十時十三分汽車は京都へ向って駅を出て行く。
[#地から1字上げ](一九二七・七)
[#改
前へ
次へ
全233ページ中44ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 文太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング