いつになるだろうと、別れを惜しみながら下って行きます。そして河内へ帰りました。ここから峠を越して国道へ出ます。この峠に登る道は地図と変って左の谷へ入ります。しかし同じ尾根へ登りました。この道は荒れ果てていますが、なかなか深山幽谷的なところです。去年十二月三十一日雪を眺めて歩いたあの国道へ出ました。そして引原川を上って行きます。午後六時頃戸倉の宿へ着きました。もし三国ヶ山へ登っていたらここまでくるどころか、山中へ一泊しなくてはならなかっただろう等と思いながら夢の世界へ沈んで行きました。
 五月一日、午前六時宿を出て、兵庫焼へと深い谷を登って行きます。ここの谷は数年前木を切り出した道が名残りをとどめています。それで大したラッセルもせずに大雪渓につきました。四ツ這いになって左の谷へ入って行きました。そしてスズ竹の尾根へ登って北へ縦走し午前九時半頂上へ着きました。そこらの落葉を取り除けてついに三角点を探し出しました。オオこれが海抜一二一六メートル四の俚称赤谷の絶頂兵庫焼の絶頂です。私は万歳と叫ばずにはいられませんでした。北には穂高から槍への残雪は近いだけ一層綺麗に見えます。右へ但馬の妙見が、左
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