坂へ帰り、午前一時の汽車で故郷を離れました。低い山でも道が無いと苦しいですね、測量した人はなかなか苦心していることがよくわかりました。
[#地から1字上げ](一九二七・五)
[#改ページ]
兵庫御嶽―乗鞍―焼登山記
四月二十九日、午前五時十分|智頭《ちず》行の汽車は鳥取を離れて残雪に蔽われた立山と扇ノ山を左に見て、南へ走って行きます。立山が隠れて氷ノ山が、大きな尾根をちょっと見せました。そしてなお奥へ奥へと汽車は走って行きます。西側の山は山吹の花で黄金色に飾られ、下を流れる智頭川は一層綺麗に見えます。六時半頃でしょう、汽車は智頭の町へ止りました。
そして私は自動車でなお二里半ほど奥へ入りました。ここから河鹿の音を聞きながら本谷川を上って行きます。ときどき涼しい風が両側の谷から吹いてきますが、ルックザックの重味と、小春日和のお日様とで汗がにじんできます。鍋ヶ谷の国有林を眺めつつ志戸坂峠へ登りました。そこには兵庫御嶽の前山が目の前に大きく聳えていました。この峠で鳥取県と別れて岡山県へ急に下って行きます。坂根から岩津原というところにきました。この村の人に兵庫御嶽の前山を俚称大海といい
前へ
次へ
全233ページ中36ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 文太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング