に晴れる。小屋にては北アルプス見えざれば本岳まで行き、御来迎を拝す。本コース中最後の最もよき御来迎なりき。八ヶ岳の上よりの日の出実に例えようなし。西の方御嶽を見返し乗鞍、穂高連峰獅子の吠えたるが如く、槍天を突き立山又前山を突き抜けて見え、東は八ヶ岳、南アルプスと覇《は》を競い、駒ヶ岳雲を抜きて聳ゆ、仙丈岳、北岳、間《あい》ノ岳、農鳥岳《のうとりだけ》等天を突き、富岳整然と南アルプスを圧す、塩見岳、東岳、荒川岳、赤石岳等高く聳えて、互いに高さを競い、蜿々列を作る、南は宝剣、前駒ヶ岳、南駒ヶ岳等互いに譲らず、三沢岳右に出で主脈をにらみ、遠く恵那山にいたるまで蜿々たり、実に日本アルプスの中屈指の眺望よきところならむ、幸いなり、かかる眺望を得し己の幸他に求むべくもあらず、例えんに物なし、引返し、朝食をすまし小屋出発、六時過ぎ宝剣(剣ヶ峰)を極め九〇〇〇尺以上の山々を上下し、南アルプスをにらみ返しながら前駒まで縦走、なかなか困難なり、前駒(空木岳)の三角点にて万歳三唱、なお進みて南駒に取付き午後五時頃絶頂を極む、霧かかりたれば引返し、すりばちクボに小屋あることを知りそれへ下山、小屋二ツあり、記名
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