ままこれから先のことについて吉田君と相談する。僕は「尾根にはまだ悪いところがありそうだから吹雪の止むまでここで待つか三、四のコルまで引返そうではないか」というと、吉田君は「もう一晩もこんなところにはいたくない、どんなことがあっても今日中に小屋へ帰ろう、悪いところはみんな自分が頑張るから」と。
そうだ、この意気だ、この意気があればこそ山登りに成功するのだ。どんな悲境に立とうとも決してこの意気を失ってはならない。世には往々ほんの僅かの苦しみにもたえず、周章狼狽、意気沮喪して敗北しながら、意思の薄弱なのを棚に上げ、山の驚異や退却の困難をとき、適当な時期に引揚げたなどと自讃し、登山に成功したのよりも偉大な如くいう人がある。
しかし山を征服しようとする我々は、こんな敗軍の将の言葉などにはいささかも耳をかさず、登頂しないうちは倒れてもなおやまないのである。
[#地から1字上げ](一九三五・七)
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厳冬の立山/針ノ木越え
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昭和九年十二月三十一日 曇後雪 八・〇〇千垣 一〇・〇〇―一一・〇〇藤橋ホテル 一・〇〇材木坂上 二・〇〇ブナ坂小屋
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