引っかかりなかなか上ってこなかったので、北穂の頂きに立ったときはすでに夕暮れがせまっていた。北穂の下りは先年二月に通ったことがあるので安心していたが、間もなく暗くなったので思うように行程がはかどらなかった。涸沢岳との鞍部に近くなった頃、一間ほどの壁を下り、すぐ飛騨側を巻くところがある。ここで岩角を掴んでトラバースしているとき、腰のバンドに取付けていた懐中電灯が岩にふれて取手の付いた蓋の方を残してカランカランと音を立てながら谷底へ落ちてしまった。仕方がないのでここまで引返してきたのである。
幸い食料も燃料も、充分持っているし、防寒具も相当あるので、ここで露営することにした。で、石を掘出しワカンとザイルを敷物にして腰掛を作る。いつの間にか雪が降り出してきた。手早くコッヘルを出して雪と甘納豆をほうり込み火をつける。雪がそろそろ融け出すと氷小豆という奴になっているのでもうたべられる。殊に身体の疲れている折などは冷い物の方がのどを通りやすい。そしてそれがあつくなった頃には殆んどすくい上げられているし、アルコールも燃えつくしている、腹もできたのでまず一眠りと、合羽をぐるぐる身体に巻き付け風の入ら
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