になんと答えたらよかったでしょう。けれど私には嘘をいうだけの勇気がありませんでした。私は「お父さん心配して下さるな。私には命懸けで愛している恋人があるのです。あなたはそれをよく御存知でしょう」と言ってしまった。ところが父は「ああおまえは何を言っているのか。父が死ぬという間際になってこれほどまでに頼むのにまだ迷いの夢が覚めないとは、おお可哀想に、お前はほんとに恐ろしい者につかれてしまったなあ」と心から嘆くのでした。ああほんとに恐ろしい力だ。忘れようとすればするほど、心の奥へくい込んでくる。どんなに我慢しようとしても駄目だ。ああどうしたらよいのか。ねえお父さんほんの二、三日ですよ、ちょっと行ってきますと言ってしまうのでした。
 鳥取の奥、若桜から西へ三倉という村のある谷に入り、三角点九七三へ登る。この谷は六〇〇メートルくらいから右手の尾根へ取りつく方がよい、尾根伝いに三角点一二八七へ登り、ここより南へ三角点一一二七附近まで往復したが、一一二七メートル附近は地図とだいぶ違っている。それから東山の頂上を極め、登り尾根を下って吉川へ出たが実に愉快なコースだった。翌日若杉峠へ向って行ったが、雪が降
前へ 次へ
全233ページ中186ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 文太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング