濃霧に鎖《とざ》されて方角がわからないのと、快晴の日の登山は、自分の歩いた道をあまり頭に入れていないためである。なお疑いながら進むうち、右手の谷の木の無い真白い雪原が出てきた。僕はそれを見てあれは確かに小代村附近の田圃に違いないとこう思ってしまった。恐ろしい感違いだ。実はこの木の無いところは木地屋《きじや》という椀や杓子《しゃくし》等のほり物をする人が、雪の無いときやってきて木を切ってしまったところである。随分と下ってきたようだが間違ったのだから引返さねばならない。だが今はあまりにひどい吹雪になっている。恐らく尾根の上は一層物凄いに違いない。それで一時ここで雪の止むのを待った方がよいに違いないと思って、風陰を探しながら歩いていると、また雪庇をふみはずし、こんどはまっさかさまに投げ出されてぞっとした。僅か二メートルぐらいのものであったがひどくこたえた。早速雪庇の下を掘って入る。
 僕はこんどのスキー行は三月も終りに近いことだから大して雪は降らないだろうし、現在積っている雪もこれまでの経験から、昼間だけはザラメ雪となるが朝夕はカリカリの雪で、靴のまま歩いても楽に違いないと信じていた。だから
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