小屋最上の愉快に候、尚ほ船津営林署に於ては蒲田《がまた》温泉より白出沢を通じて当小屋に至る三尺幅の新道を開通し完全に危険を去り此の間四里且つ蒲田温泉へは半里の栃尾迄自動車の便あれば衆俗をはなれし山境蒲田に第一歩を印せられて諸峰の嶮を探ぐるも意義ある事と存候、想ふに毅然たるアルプスは日本人の表兆にして登山家諸賢の御参登を仰いで初めて小生の寸志も遂げ得る者に候、切に礼賛御宣伝を御希申上候 敬具」
 鉛筆登山――私は彼のリーダーに今年北鎌尾根を縦走すると言う人があったと言ったら、彼は今年はまだやった人はないし、それは地図に色鉛筆で見事な線を引くだけの鉛筆登山というのだろうという。私もなるほどそれに違いないと思った。神戸徒歩会も夏期大旅行とて穂高縦走を書いていたので穂高小屋で名簿を見たが、見つからなかった。これも鉛筆登山だったらしい。
 乗鞍と御嶽――穂高下山道で見たスタイルは素敵でともに富士に劣らぬほど雄大であった。地図には書いてないが石仏道というのは地図の千町ヶ原道の二四六二・二メートルの三角点より少し下で左の尾根に入り一八六四・七メートルの牧場を通って橋場というところに下る道で、途中に避
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