エーホーと声をかけてみましたが、返事はありませんのでまた一人引返しました。立山の連峰がアーベント・グリューエンに燃えて素敵でした。小屋に帰ってみると、あの人等は熱心に劔登行について相談しておられました。僕が囲炉裏の側でいつものフライ饅頭を食っていると、福松君がそんな物ばかり食っているとからだに悪いからと言って、熱い御飯とお汁を入れてくれるのでした。その夜はすばらしくたくさんの星がキラキラ瞬いていました。福松君がこんなに星が明滅するのはよくないと言っていた通り、次の日は午後からひどく荒れました。
二日の朝は快晴だったので、あの人等は朝早くから起きて準備されました。僕が毛布を罐に入れ、荷物をまとめているとき、あの人等は出発し、田部氏は後頼むよと言って行かれました。僕はそれからすぐ支度ができたので、小屋の中を見廻ってこれでよいと思ってから皆の後を追いました。追いついたとき田部氏が僕に、君はどこへ行くんですかと尋ねられたのです。それで、僕はいけなかったなと思って何と挨拶しようかとちょっとだまっていると、福松君が、室堂に行くんでしょうと答えてくれました。追分小屋の附近から僕が先頭になってラッセ
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