て急に登る。道はなくとも短い草があるきりで楽だ。登り切るとちょっと尖った頭でこの向うが絶頂だ。それへ登ってちょっと広い頭を歩き廻って三角点を見つける。ときに午後一時、海抜四〇三〇尺、兵庫大天井、鉢伏の絶頂だ。熊次村の人がスズ竹の子を取りにきている。そこで附近の山の高さと三角点の話をしてやる。名前を書いた杭を打って、小代村へ向って八反滝という谷を下る。初めは楽だが下の方は名前の如く滝また滝でそのたび尾根へ登らねばならぬからなかなか時間がかかった。しかし今日は氷ノ山に道があったため楽に午後四時頃秋岡という村の宿へ着くことができたのは拾い物であった。
 二十九日、午前六時頃宿を出発し兵庫高瀬川を二十町くらい遡って田のある山へ登り深い谷へ入って行く。ここは木を切って小さい杉が植えてあるので楽だ。尾根を登り切って縦走して行く。頂上は長くなっていて絶頂がどこかわからぬ。三角点を探しながら高そうなところの落葉を除けては進むのだから大変時間がかかる。一番北の端へ行ってみたが無い。行き過ぎたような気がするから後戻りして兵庫白馬へつづいている尾根だと思うところを探し廻ったが無い、兵庫白馬へも行きたいと思っていたのであきらめてそこへ杭を打ち尾根を下って行った。ところが下ってみると尾根が違っていて谷へ下ってしまっている。そこでこの谷を登って本尾へ出て三角点を探したところが違っていたのでまた鷲羽へ向って登り、頂上付近を探しついに三角点を見つけた。このときの嬉しかったのは氷ノ山に道があったとき以上だ。一番高いところではないがこれが兵庫鷲羽俚称三ツヶ谷の頂上海抜四〇九〇尺の三角点だ。ときに十二時過ぎ、予定と狂うこと三時間以上、杭を取りに行ってここへ打込んだときは午後一時、白馬俚称仏ノ尾へ登ればいかにしても今日中に駅へ出られそうになく三角点もないので、ついに思い切って大きな雪渓を辷りつつ下り佐坊へ出で、鍛冶屋から芳滝を通って小長辿に行きここから八田村へ越す峠へ登って行く。肥前畑へ下る前に眺望開けて扇ノ山と立山すなわちブナの木の尾根あの雄大な高原が見える。去年あの山中を歩き廻ったかと思うと感慨無量、しばし見入らずにはいられぬ。黒部川を下って国道を蒲生峠に登り荒れた道を塩谷に下り、岩美駅へ午後九時半まで歩いた。午後十時十三分汽車は京都へ向って駅を出て行く。
[#地から1字上げ](一九二七・七)
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