ず引返したるも道に迷う途中、小屋らしきものありて火が見えたり、喜び声をかくれば人あり。ここは八合目の小屋なりと、ただちに宿泊を頼む。荷物は観測所に置いたままその夜疲れ寝たり。

[#地から1字上げ]三十日(金曜日)祭日 雨後晴
 風雨をおかして八合小屋発八時頃。その前荷物を観測所へ取りに行き朝食後出発、昨日の道を進む。昨日頂上と思いしは前山にして、それより数町にして小屋あり。これ頂上の小屋なり(ヒダ小屋)九時頃着、そこに休み、昼食を食す(下駄履きにて頂上、三角点を極め万歳三唱す。展望台の壊れたるあり祠数多ありき)十一時半石仏道を小屋の人に教えてもらいそれを下る、少し雪渓を下りて山を廻り西側に出で尾根を下る。もはや道を迷うこと(途中小屋あり、雨ふる)なし、牧場に入りそれより下りに少し迷い、日和田へ無事着六時過ぎ宿へ泊る。

[#地から1字上げ]三十一日(土曜日)晴
 日和田発、七時頃宿の人に道を教わりたる故迷わず進む。御嶽《おんたけ》の裾野を行く途中草刈りの小供に道を教えられ迷うところを無事通過、前は御嶽の雄姿、後に乗鞍の雄峰を眺めながら行く、実に景色よく心躍るものあり、途中木に御嶽道と記せり、内ヶ谷の川を渡り笹原に取付き嶽ノ湯へ行く道を横切りて急なる道を進む、雪渓に出でこれの右側を進む。なかなか急なり、休み後方を見れば、御嶽の裾野の偉大なるに驚けり、高天原|継子岳《ままこだけ》着、二時頃三角点にて万歳三唱、両側に池を眺めながら尾根を進みて一、二時間にて摩利支天着、三角点にて万歳三唱、下山、雪渓の上を廻りて道に出で、また登りて、二ノ池小屋着、焼印を押し絵葉書を買い黒沢口小屋に行く、王滝頂上小屋へいたり荷物を置き頂上へ行く。数多祠あり、また登りて三角点にて万歳三唱、一〇二一八尺の石碑あり、これはどこより計算したるか知らず、地図には一〇一〇八尺なり、社務所にて絵葉書、扇子、御守、御百草(ダラニスケと同様らしい)を買う。小屋にて焼印を押し泊る。

[#地から1字上げ]八月一日(日曜日)曇
 早朝起床支度をなし、朝食をすまし、午前六時小屋出発。王滝口下山なかなか急峻なる道なり。七合目までは苦しいほどの下りにて七合よりスロープ緩く楽なり。三笠山の横を通り多くの小屋を過ぐ、王滝十一時半着、途中清滝王(新)滝を見物せり、なかなか気持よきところなり、王滝村にて昼食をなし十二時出発木曾
前へ 次へ
全117ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 文太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング