である。)

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一月三日 快晴 七・〇〇天狗平の小屋 一〇・〇〇立山最高点 三・〇〇ザラ峠 五・三〇刈安峠 九・〇〇平の小屋
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 今は実にすばらしい良いお天気である。冨山組四人と小屋番の案内および僕の六人で出発した。昨日登った杉山さんと案内のシュプールがあるのでそれを伝う。広い雪原を南よりに東へ向ってしばらく登ると浅い谷を渡る。二六二〇・八メートルの裾を巻き終るとまた広い谷が現われてくる。この谷にはよく雪庇ができているので、なるたけ右寄りに巻いて谷を渡る方が安全である。
 これを越せば室堂の平はすぐである。天狗平から一時間ほどで室堂に着く。室堂からは浄土山の北斜面を巻いて行く。急斜面を巻き切ると一ノ越はすぐ目の上に現われてくる。この附近は随分風が強いとみえて雪は固くなっているし、浄土側には一部雪庇ができてその下には大きなスカブラができている。一ノ越のすぐ下の固い雪の斜面をキック・ターンしながら登れば室堂から一時間ほどで一ノ越の上にのぼれる。たいてい風は西から吹き上げてくるので風陰を求めて黒部側へちょっと下り、そこでスキーをアイゼンにかえる。
 乳菓等を少したべて元気をつけてから登る。小屋番の案内はアイゼンを持ってこなかったので、頂上へは登れない。冨山のパーティも夏山用の不完全なアイゼンを履いているので早くは登れない。一ノ越から頂上までのあいだの尾根は最初ちょっと雪のやわらかいところと、岩の出たところがあるがだいたい固い雪の道で、ところどころ風で夏道の出ているところもあり、夏と殆んど変らない時間で登れる。
 しかし風はなかなか強く寒いので、防風用の服を着、顔は毛皮で頬冠りをした上、スキー帽も冠って登る。頂上の社務所のところはまだ雪がやわらかくところどころ落ち込む。僕は雄山神社のところへ登った後、大汝の方へ二十分ほど縦走して行って立山の最高点へ往復する。この最高点から雄山神社を越して薬師岳が見えるし、大汝の上には黒部谷下流の白馬側の山が見える。冨山のパーティのうち頂上へは二人しか登らなかった。他の二人は追分の小屋にいるときからすでに消耗していた人である。頂上へ登ったリーダーらしい方の人は、これで春夏秋冬と立山の頂上へ登ることができて本望であると言って喜んでいた。一ノ越で一行から蜜柑《みかん》を御馳走になる。
 一行がスキー
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