小屋で零度(降雪中)翌十二月一日大天井岳頂上で零下五度(晴、強風)であった。また初冬の岩場は凍ったところが少なく、冬春を通じて一番安全である。初冬の山行の困難は積雪の状態が真冬と同様に軟く、スキーなしには殆んど登れないことである。すなわち春山のようにクラストを利用したり、雪崩の後を伝ったりして歩いて登ることができない。だから藪の多い山や、谷が細く傾斜の急な山へ登ったり、谷から山へ、山から谷へと横断して行くのは困難であろう。
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冬山単独行

    薬師岳、烏帽子岳の小屋まで

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昭和五年十二月三十日 小雪 猪谷午前九・三〇 大多和村午後二・五〇零下一度 積雪量一尺くらい
十二月三十一日 晴後快晴 大多和村午前八・三〇零下三度 大多和峠午後〇・〇〇零下四度積雪量三尺くらい 有峰三・〇〇 真川峠八・三〇 真川奥の小屋一〇・〇〇零下一四度積雪量四尺くらい 
昭和六年一月一日 曇 真川奥の小屋午前八・三〇零下八度 太郎平午後一・二〇零下六度 上ノ岳の小屋二・三〇零下七度
一月二日 風雪 滞在 午前八・〇〇零下二度 午後〇・〇〇零下五度 四・〇〇零下六度
一月三日 霧後快晴 午前八・〇〇零下一一度 上ノ岳の小屋一一・三〇 薬師沢乗越午後〇・三〇 薬師岳二・五〇零下一三度 薬師沢乗越三・五〇 上ノ岳の小屋五・二〇零下一〇度
一月四日 曇 上ノ岳の小屋午前八・〇〇 黒部五郎岳午後〇・一〇零下八度 黒部五郎の小屋二・〇〇 三俣蓮華岳四・五〇 三俣蓮華の小屋五・三〇零下三度
一月五日 雪 滞在 午前八・〇〇零下二度 午後四・〇〇零下一度
一月六日 雪 三俣蓮華の小屋午前七・〇〇 鷲羽岳九・〇〇零下七度 黒岳午後〇・三〇 野口五郎岳六・三〇 避難地七・〇〇―九・〇〇 三ツ岳午前〇・〇〇 烏帽子の小屋二・〇〇
一月七日 快晴 二〇メートル以下霧 烏帽子の小屋午前一一・〇〇 濁の東信電力社宅午後一一・〇〇
積雪量一尺くらい
一月八日 小雪 電力社宅午前一〇・〇〇 葛ノ湯午後〇・〇〇 大町駅二・三〇
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 猪谷から大多和までは両側の山から大きい雪崩の出るところだと思っていたが、雪の少ないためかまだ雪崩の跡はなかった。大多和村では吉田長右衛門様のところで泊めてもらった。村から十町ほど行ったところに崩
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