徹な理想家というものと、たまたま地上で縁を結んだ不幸だとあきらめてもらう他ありません。
 平野検事のお心づくしも有難う存じました。先生からどうぞよろしくお伝え下さい。なお同検事は御存知のことと存じますが、私は目下ここの所長さんの御好意によって自由な感想録を書かしていただいています。これは門外永久不出で単に所長さんにだけ読んでいただく、それも私の生前にはお目にかけないということにして御諒解を願っております。従ってそれはただ私のたのしみのために書いているようなものであります。いわば大波の来る前に砂浜の上に書いた文字のようなものであります。ただ私の態度は湖水の静かな水のようにその上を去来する白雲や時には乱雲や鳥の影や、また樹影やらを去来のままに映し来り映し去って行きたいと思っています。世界観あり、哲学あり、宗教観あり、文芸批評あり、時評あり、慨世あり、経綸あり、論策あり、身辺雑感あり、過去の追憶あり、といった有様で、よく読んでいただけば何かの参考にはなろうかと思っております。併しもとよりそれを目的に書いているのではありません。ただこれは先生に私がこんなものを物しているということだけを知ってお
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