「…………」
「ね、お上さん」
「…………」
答えがないので、為さんはそっと紙門《からかみ》を開けて座敷を覗くと、お光は不断着を被《はお》ったまままだ帯も結ばず、真白な足首|現《あら》わに褄《つま》は開いて、片手に衣紋《えもん》を抱えながらじっと立っている。
「為さん、お前さん本当《ほんと》にそんなことを言ったのかね?」
「ええ」と笑っている。
「言ったってかまわないけど……どんな用事があるか分りもしないのに、遊びに行ったなんて、なぜそんなよけいなことをお言いだね?」
「じゃ、やっぱり金さんのとこへ? へへへへそうだろうと思ってちょっと鎌《かま》かけたんで」
「まあ、人が悪いね?」
「へへへへ。何しろお楽しみで……」と為さんはジリジリいざり寄って来る。
「あれ、そっちへ行っておいでよ! 人が着物着更えてるのに、不躾《ぶしつけ》千万だね」
六
医者が今日日の暮までがどうもと小首をひねった危篤の新造は、注射の薬力に辛くも一縷《いちる》の死命を支《ささ》えている。夜は十二時一時と次第に深《ふ》けわたる中に、妻のお光を始め、父の新五郎に弟夫婦、ほかに親内《みうち》の者二人と
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