深川女房
小栗風葉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)間鴨《あいがも》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)今年|幾歳《いくつ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)「え※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」
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     一

 深川八幡前の小奇麗な鳥屋の二階に、間鴨《あいがも》か何かをジワジワ言わせながら、水昆炉《みずこんろ》を真中に男女の差向い。男は色の黒い苦み走った、骨組の岩畳《がんじょう》な二十七八の若者で、花色裏の盲縞《めくらじま》の着物に、同じ盲縞の羽織の襟《えり》を洩《も》れて、印譜散らしの渋い緞子《どんす》の裏、一本筋の幅の詰まった紺博多の帯に鉄鎖を絡《から》ませて、胡座《あぐら》を掻《か》いた虚脛《からすね》の溢《は》み出るのを気にしては、着物の裾《すそ》でくるみくるみ喋《しゃべ》っている。
 女は二十二三でもあろうか、目鼻立ちのパラリとした、色の白い愛嬌《あいきょう》のある円顔《まるがお》、髪を太輪《ふとわ》の銀杏
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