たかい?」
「いえ、まだ詳しいことは……」
「じゃ、詳しく話したらどうだい?」
「はあ、じゃとにかくあの写真を……」とお光は下へ取りに行く。
後に新造は、「お光がね、金さんにぜひどうかいいのがお世話したいと言って、こないだからもう夢中になって捜してるのさ」
「どうかそんなようで……恐れ入りますね」
「今日ちょうど一人あったんだが……これは少し私《わし》の続き合いにもなってるから、私が賞《ほ》めるのも変なものだけれど、全くのところ、気立てと言い縹致《きりょう》と言いよっぽどよく出来てるので……今写真をお目にかけるが……」と言っているところへ、お光は写真を持って上って来た。
「さあ、金さん」と差し出されたのを、金之助は手に取って見ると、それは手札形の半身で、何さま十人並み勝《すぐ》れた愛くるしい娘姿。年は十九か、二十《はたち》にはまだなるまいと思われるが、それにしても思いきってはでな下町作りで、頭は結綿《ゆいわた》にモール細工の前※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《まえざ》し、羽織はなしで友禅の腹合せ、着物は滝縞の糸織らしい。
「ねえ金さん、それならお気に入るでしょう?」とお光は笑いながら言ったが、亭主の前であるからか辞《ことば》使いが妙に改まっている。
「そうですね、私《わっし》にゃ少し過ぎてるかも知れねえて」
「そんなことはないけど、写真で見るよりかもう少し品があって、口数の少ないオットリした、それはいい娘《こ》ですよ」
「そんないい娘が、私のような乱暴者を亭主に持って、辛抱が出来るかしら」
「それは私が引き受ける」と新造が横から引き取って、「一体その娘の死んだ親父《おやじ》というのが恐ろしい道楽者で自分一代にかなりの身上《しんしょう》を奇麗に飲み潰《つぶ》してしまって、後には借金こそなかったが、随分みじめな中をお母《ふくろ》と二人きりで、少《ち》さい時からなかなか苦労をし尽して来たんだからね。並みの懐子《ふところご》とは違って、少しの苦しみや愁《つら》いくらいは驚きゃしないから」
「それもそうだし、第一金さんのとこへ片づいて、辛抱の出来ないようなそんな苦しいことや、愁いことがあろうわけがなさそうに思われるがね。それとも金さん、何かお上さんが辛抱の出来ないようなことを、これからし出来《でか》そうってつもりでもあるのかね?」
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