は引き取るか貢ぐかしなけりゃならないのだが、まあ大抵の男は、そんな厄介《やっかい》附きは厭がるからね」
「そうさ、俺にしても恐れらあ。だが、金さんの身になりゃ年寄りでも附けとかなきゃ心配だろうよ、何しろ自分は始終留守で、若い女房を独り置いとくのだから……なあお光、お前にしたって何だろう、亭主は年中家にいず、それで月々仕送りは来て、毎日遊んで食って寝るのが為事としたら、ちょいとこう、浮気の一つも稼いで見る気にならねえものでもなかろう」と腰をさすりさすり病人|厭言《いやごと》を言う。
お光は済ましたもので、「そうね、自分がなって見ないことにゃ何とも分りませんね」
と、言っているところへ、階子段《はしごだん》の下から小僧の声で、「お上さん、お上さん」
「あいよ。何だね、騒々しい!」
「お上さん!」
「あいよったら!」
小僧はついにその返事が聞えなかったと見えて、けたたましく階子段を駈け上って来て、上り口からさらに、
「お上さん!」
「何だよ! さっきから返事をしてるじゃないか」
「そうですか」と小僧は目をパチクリさせて、そのまま下りて行こうとする。
「あれ、なぜ黙って行くのさ。呼んだのは何の用だい?」
「へい、お客様で……こないだ馬の骨を持って来たあの人が……」
「何、馬の骨だって?」と新造。
「いいえ、きっとあの金さんのことなんですよ」
「ええ、その金さんのことなんで」
「金さんだなんて、お前なぞがそんな生意気な口を利くものじゃない!」
「へい」
お光は新造に向って、「どうしましょう、ここへ通しましょうか?」
「ここじゃあんまり取り散らかしてあるから、下の座敷がいいじゃねえか」
「じゃ、とにかく座敷へ通しましょう」とお光が立ちかかると、小僧は身を返してバタバタと先へ下りて行く。
店先へ立ち迎えて見ると、客は察しに違《たが》わぬ金之助で、今日は紺の縞羅紗《しまらしゃ》の背広に筵織《むしろお》りのズボン、鳥打帽子を片手に、お光の請ずるまま座敷へ通ったが、後見送った若衆の為さんは、忌々《いまいま》しそうに舌打ち一つ、手拭《てぬぐい》肩にプイと銭湯へ出て行くのであった。
金之助は座に着くとまず訊ねた、「どうだね、新さんの病気は?」
「どうも相変らずでね」
「やっぱり方々が疼くんだね?」
「はあ。どうかその疼くだけでも留ったらとそう思うんだけどね……自分も苦しいだろう
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