んを取り持とうと思うんだが……」
「女房を? そうさね……何だか異《おつ》りきに聞えるじゃねえか、早く一人押ッ付けなきゃ寝覚《ねざ》めが悪いとでも言うのかい?」
「おや、とんだ廻《まわ》り気《ぎ》さ。私はね、お前さんが親類付合いとお言いだったから、それからふと考えたんだが……お前さんだってどうせ貰わなきゃならないんだから、一人よさそうなのを世話して上げたら私たちが仲人というので、この後も何ぞにつけ相談|対手《あいて》にもなれようと思って、それで私はそう言って見たんだが……どうだね、私たちの仲人じゃ気に入らないかね?」
「なに、そんなことはねえ、新さんとお光さんの仲人なら俺にゃ過ぎてらあ。だが、仲人はいいが……」と言い半《さ》して、そのまま伏目になって黙ってしまう。
「仲人はいいが、どうしたのさ?」
男は目を輝かせながら、「どうだろう? お光さん」
「え?」
「せめてお光さんの影法師ぐらいのがあるだろうか?」
「何だね、この人は! 私ゃ真面目で談《はな》してるんだよ」
「俺も真面目さ」
「まあ笑談は措《お》いて、きっとこれから金さんの気に入ろうというのを世話するから、私に一つお任せなね」
「そりゃ任せようとも、お前に似てさえいりゃ俺の気に入るんだから」
「およしよ、からかうのは。私のようなこんな気の利かないお多福でなしに、縹致《きりょう》なら気立てなら、どこへ出しても恥かしくないというのを捜して上げるから、ね、今から楽しみにして待っておいでな」
「まあその気で待っていようよ。おいお光さん、談してばかりいて一向やらねえじゃねえか。どうだい酒が迷惑なら飯をそう言おう」
「いえ、もうお飯《まんま》も何もたくさん。さっきから遠慮なしに戴いて、お腹が一杯だから」
「だって、一膳ぐらいいいだろう? 俺も付き合う」
「お前さんはまだお酒じゃないか、私ゃ本当にたくさんなの。それにあんまり遅くなっても……」
「なるほど、違えねえ、新さんが案じてるだろう」
「癪《しゃく》をお言いでないよ! だが、全くのことがね、この節内のは体が悪くて寝てるものだからね」
「そうか、そいつはいけねえな」
二
永代橋傍の清住町というちょっとした町に、代物《しろもの》の新しいのと上さんの世辞のよいのとで、その界隈《かいわい》に知られた吉新という魚屋がある。元は佃島の者で、ここへ引っ越して来て
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