芸術における最も重要な原理を実行することである。芸術が充分に味わわれるためにはその同時代の生活に合っていなければならぬ。それは後世の要求を無視せよというのではなくて、現在をなおいっそう楽しむことを努むべきだというのである。また過去の創作物を無視せよというのではなくて、それをわれらの自覚の中に同化せよというのである。伝統や型式に屈従することは、建築に個性の表われるのを妨げるものである。現在日本に見るような洋式建築の無分別な模倣を見てはただ涙を注ぐほかはない。われわれは不思議に思う、最も進歩的な西洋諸国の間に何ゆえに建築がかくも斬新《ざんしん》を欠いているのか、かくも古くさい様式の反復に満ちているのかと。たぶん今芸術の民本主義の時代を経過しつつ、一方にある君主らしい支配者が出現して新たな王朝をおこすのを待っているのであろう。願わくは古人を憬慕《けいぼ》することはいっそうせつに、かれらに模倣することはますます少なからんことを! ギリシャ国民の偉大であったのは決して古物に求めなかったからであると伝えられている。
「空《す》き家」という言葉は道教の万物|包涵《ほうかん》の説を伝えるほかに、装飾精
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