立て取りこわしの容易なわが国の木造建築のようなある建築様式においてのみ可能であった。煉瓦《れんが》石材を用いるやや永続的な様式は移動できないようにしたであろう、奈良朝《ならちょう》以後シナの鞏固《きょうこ》な重々しい木造建築を採用するに及んで実際移動不可能になったように。
しかしながら十五世紀禅の個性主義が勢力を得るにつれて、その古い考えは茶室に連関して考えられ、これにある深い意味がしみこんで来た。禅は仏教の有為転変《ういてんぺん》の説と精神が物質を支配すべきであるというその要求によって家をば身を入れるただ仮りの宿と認めた。その身とてもただ荒野にたてた仮りの小屋、あたりにはえた草を結んだか弱い雨露しのぎ――この草の結びが解ける時はまたもとの野原に立ちかえる。茶室において草ぶきの屋根、細い柱の弱々しさ、竹のささえの軽《かろ》やかさ、さてはありふれた材料を用いて一見いかにも無頓着《むとんじゃく》らしいところにも世の無常が感ぜられる。常住は、ただこの単純な四囲の事物の中に宿されていて風流の微光で物を美化する精神に存している。
茶室はある個人的趣味に適するように建てらるべきだということは、
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