いう静寂純潔の効果を生ぜしめた茶人の巧みは実に偉いものであった。露地を通り過ぎる時に起こすべき感情の性質は茶人によっていろいろ違っていた。利休のような人たちは全くの静寂を目的とし、露地を作るの奥意は次の古歌の中にこもっていると主張した(二八)。
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見渡せば花ももみじもなかりけり
    浦のとまやの秋の夕暮れ(二九)
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 その他|小堀遠州《こぼりえんしゅう》のような人々はまた別の効果を求めた。遠州は庭径の着想は次の句の中にあると言った。
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夕月夜《ゆうづくよ》海すこしある木《こ》の間《ま》かな(三〇)
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彼の意味を推測するのは難くない。彼は、影のような過去の夢の中になおさまよいながらも、やわらかい霊光の無我の境地に浸って、渺茫《びょうぼう》たるかなたに横たわる自由をあこがれる新たに目ざめた心境をおこそうと思った。
 こういう心持ちで客は黙々としてその聖堂に近づいて行く。そしてもし武士ならばその剣を軒下の刀架《とうか》にかけておく、茶室は至極平和の家であるから。それから客は低くかがんで、高さ三尺ぐ
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