こと少なからず。人形の面の如きも、細君に隱して、こつそり細工すること二年にして出來上りたるものなりとかや。技の巧拙は問はず、其熱心と根氣とは實に感心也。而して人形茶屋の名を博して、遊客の注意を惹ける點より見るも、決して細君の叱るが如き徒勞にはあらず。殊に其名利を超脱して細工に優遊せるは、今の世の藝術家にも其比少なかるべし。
二 天幕の一夜
五六人臥するに足るだけの天幕を持ち行きけるまゝにて、之を用ゐたること無かりしに、西村醉夢來り訪ひ、氣を吐いて曰く、寶の持腐れといふことあるが、天幕の持腐れは氣の利かぬ話也。今夜之を張らずやと。我等顏色なし。さらばとて、直ちに天幕を濱邊に張れり。之に臥したるは醉夢と余と甥一人豚兒三人なりき。醉夢も兵士として出征せし時には、露營の經驗もあれど、久しく都門の風塵に生活せる今の身に取りては、餘りに急激の變化也。翌日熱少し出でて、頭があがらざるは、氣の毒なりき。其病ひ癒えたるかと思へば、小兒を相手に、終日赤條々となりて砂の砲臺を築き、白皙の背中、爲に赤くなり、ぴり/\痛み出しけるが、終に背中より肩、兩腕へかけて、一面にぽつ/\水腫を生ず。重
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