ンプの勝負によりて、枕の有無を定めしこともあり。日暮れぬさきより、早く枕を懷ろにせるもあり。時に腕力に訴へて、枕の奪ひあひをせしこともありき。
毎日、海水に泳ぐのみにては足れりとせず。舟をうけて、沖ノ島や、高ノ島に遊び、汐入川に網うち、小川をかへぼししたり、すくひたりして、小魚を漁る。日がへりの遠足は度々したりしが、二三日かけて旅せしこともあり。雨ふれば、トランプに日をくらす。なほあかずして、海に盥舟までうけて遊ぶ。かくて、ひと夏は、夢のうちに過ぎぬ。
二 鏡ヶ浦
宮は安房神社、官幣大社にして、天太玉命を祀る。寺は那古の觀音、船形觀音。本織村の延命寺には、里見氏累代の墓あり。白濱の杖珠院にも、里見氏の墓あり。鹽見村の龍伏の松、千年の老幹偃蹇して、ひろさ百坪に及ぶ。元名の覇王樹、高さ一丈にあまる。いづれも稀代の珍也。
洲ノ崎を左にし、大武岬を右にせる一大灣を館山灣と稱し、又鏡ヶ浦と稱す。浪はおだやかなり。遠淺にして水清く、最も海水浴に適す。八幡の濱邊には、松林つゞきて、逍遙するに快し。この一帶の濱邊より海をへだてて富士山を望むの景色は、われ幾たび見ても、飽くことを
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