なし。風船玉賣る男、氣の毒がりて、その代りに今一つ下女にやらむとすれど、下女辭して受けず。強ひて止まざるが、こんどは子供が承知せず。さきに買ひたるは青き玉なり。今、代りにやらむとするは赤き玉なり。赤は厭なりと、かぶり振る。出來て居るは、あいにく赤のみなれば、別に青玉をつくり、別に錢を拂ふ。子供は唯※[#二の字点、1−2−22]風船玉の面白きを知る。錢の貴さを知らず。さすがに、前の失敗にかんがみけむ、しつかりと握りつゝ、うれしげに何やら唱歌らしきもの歌ふ聲、次第々々に、風船玉と共に、霞みゆく。
 わが手にさげたる五つの風船玉、路上の子供の心を惹くこと一方ならず。到る處の子供、見付けては、近寄り來りて目を凝らす。犬に牛肉、猫にまたゝび、狐に油揚、青年に戀、俗人に錢、氣を負ふものに功名、釣られて面白がるが、浮世にや。五六人集まり居りたる中の年最も幼き子、われを風船屋と思ひけむ、賣つておくれと小聲に言ひけるが、他の年やゝ長じたる子、あれは風船屋では無しと言ひきかするに、それと納得して口をつぐみ、目をひからして見送る。店屋の前に、三人ばかり遊び居りたるが、三人の眼、忽ち風船玉に向つて凝る。その中
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