の一人、おくれよといふ。眼を凝らする子供は幾十百人といふことを知らざるが、おくれよと云ひたるは、唯※[#二の字点、1−2−22]この子[#「この子」は底本では「こ子」]のみ也。こは商家の子也。近頃流行の出齒るとは、これにや。女に出齒りて大久保の龜とやらになり、金に出齒りて成金黨となり、政治に出齒りて陣笠連となり、學問に出齒りて衒學先生となり、文學に出齒りて自然派文士となるにや。
家にかへりて、風船玉の二つは、親戚の子に與へ、あとの三つを三男、長女、四男の三兒に與ふ。上の二兒は既に中學校に通ひ居りて、最早風船玉など欲しがらざれば也。四男忽ち絲をはなして、風船玉空に消ゆ。欲しがりて泣く。三男に向ひて、お前はもう三年生だから、風船玉などは讓つてやれといへば、能く聞きわけて讓る。長女の持てる玉、ひしなぶ。欲しがりて泣聲出す。お前も一年生だからと云ひきかす程に、四男のもてる玉もひしなぶ。親が子を喜ばせむとせしも、子が喜びしも、ほんの僅々二三時の間の事なりき。[#地から1字上げ](明治四十三年)
底本:「桂月全集 第一卷 美文韻文」興文社内桂月全集刊行會
1922(大正11)年5月28日発行
入力:H.YAM
校正:門田裕志、小林繁雄
2009年1月13日作成
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