粕壁夜行記
大町桂月

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第三回の夜行を粕壁に爲すこととなりけるが、夜光命も來らず、十口坊も來ず、山神慨然として、『妾を伴ひ給へ』と乞ふ。似たもの夫婦と、人や云ふらむ。裸男承知して、將に家を出でむとすれば、伊藤薊山、上京したるばかりの足にて、來り訪ふ。裸男の行裝を見て、『何處へ行く』と問ふ。夜行の事を告ぐれば、『相變らず元氣なる事かな。われも共に行かむ』といふ。『われを元氣といふ君こそ、相變らず元氣なれ』とて、相笑ふ。薊山今は太田中學校の教員なるが、裸男とは青年時代の舊學友にして、殊に遠足仲間也。幾んど日曜ごとに遠足したりき。いづれも貧乏書生の事とて、人並に汽車に乘る贅澤は出來ず。十四里の鎌倉へ、徹夜して行き、徹夜して歸りたることもありき。徹夜するのみならず、野宿したることもありき。或時、日は暮れかゝる、雨はふる、寒さ身を裂く、腹はペコ/\になる、薊山小便せむとするに兩手凍
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