やがて又、遠く上りて、また白鴎の如し。長江むなしく悠々として天を浮べて流る。江山に對すれば、天地は人間にあらざれども、嚢中を思へば、心細し。熟醉を買ふほどの阿堵物を持たず。萬事の周旋は、一行中の世才に長けたる山根氏にまかせて、そのさしづのまゝに切り上ぐ。小岩停車場より汽車にのることと定めて、徒歩す。日暮れたり。螢ぼつ/\飛び來たる。
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夕闇や螢過ぎゆく鼻の先
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と山根氏の言ふを聞けば、どうにか、かうにか、句になつて居るやう也。見つけ次第、捕へて紙につゝむ。
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家土産に螢とらばと思ひけり
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と云へば、桃葉は、
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螢とぶや蓮田の上を一文字
螢とぶ里の土橋のくづれより
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われはまた、
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螢とぶ木蔭の墓標新しき
大螢終に逸せし川邊かな
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小岩停車場に着きて、上り汽車を待つ。片田舍の小驛の暢氣さ。事なきまゝに、驛長は少年の驛員を相手に、しかも、片馬はづしてもらつて、將棊をさす。われ見て以爲へらく、田舍の役所、學校
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