。殊に余の性情、文を作ることを好むと共に、また客を好む。客を好むことと文を作ることとは、相容れず。この春あたりは、都を去りて、どこへか移りすまむかとも思ひて、心は先づ何處かの海邊へ飛びて、このやうな詩をつくりたり。聞いて呉れ給へ。
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海畔移[#レ]居氣亦新。梅花籬落自成[#レ]春 一床書卷一枝筆。好作[#二]江湖獨善人[#一]。
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この詩は、いかにと云へば、詩をつくるよりは田を作れ、入らぬ詩ばかり出來て、肝腎な金はまだ出來ぬかとて、道別笑ふ。來城も笑ふ。余も笑ふ。
道別、歸らむといふに、留めもせず。裁判所より未だ家に歸らざることなれば、細君は定めて、心配し居るならむ。今日は歸れといふ。道別は去る。來城は、またやどりぬ。
來城去りて後、寒山の詩を讀む。その中に、
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田家避[#レ]暑月。斗酒與[#レ]誰歡。雜雜排[#レ]山果。疎疎圍[#二]酒樽[#一]。蘆※[#「くさかんむり/悄のつくり」、36−8]將代[#レ]席。
蕉葉且充[#レ]盤。醉後※[#「てへん+耆」、36−9][#レ]※[#「ぼう+臣+頁」、第4水準2−92−28]坐。須彌小[#二]彈丸[#一]。
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句々みな味ふべし。殊に疎疎圍[#二]酒樽[#一]の一句、如何にも仙客の能度が見ゆるやうなりと、獨り笑ふ。[#地から1字上げ](大正四年)
底本:「桂月全集 第一卷 美文韻文」興文社内桂月全集刊行會
1922(大正11)年5月28日発行
入力:H.YAM
校正:門田裕志、小林繁雄
2009年1月13日作成
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