歩かざるべからず。天神峠の嶮さえあり。されど、塩谷温泉より登るに比ぶれば、遥に平易也。毎年大雪山に登るもの百人内外、忠別川を溯《さかのぼ》りて松山温泉に一宿し、次の日姿見の池の畔に野宿し、その次の日旭岳に登るだけにて、引返して松山温泉に再宿するなりと、嘉助氏いえり。それだけにては、大雪山の頂上の偉大なることも判らず、御花畑の豊富なることも判らざる也。羽衣滝も壮観なるが、他にその比なしとせず。層雲峡の絶景に比すべくもあらず。塩谷温泉の連中は、旭岳と羽衣滝とを閑却したるが、その代り層雲峡と北鎮岳とを窮めたり。この方が旭岳と羽衣滝とを窮むる者よりは、要領を得たりというべし。されど旭、北鎮、白雲の三岳に登らずんば、大雪山の頂を窮めたりとはいうべからず。羽衣滝も閑却すべからず。もしも層雲峡を閑却するならば、これ大雪の一半を見ざる也。
在来大雪山に登るものは往復四日を費したるに、余はその二倍の日数を費したりしかば、思いがけずも、『北海タイムス』に、行方不明となれりと伝えられたり。旭川の有志、明日は捜索隊を出さむと騒げり。出張の途次、余を訪いたる甥《おい》の政利も、その隊に加わらむとせり。余無事に
前へ
次へ
全23ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大町 桂月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング