げり。大人も小児も打寄りて見物す。その小熊ぐるぐる廻りて、時々ちゅうちゅうと掌を嘗《な》む。熊は大熊とても、何となく可愛らしくして、獅虎の如くに猛獣とは見えず。小熊はなおさら可愛らしく見ゆ。この小熊の行末は動物園の檻に入れらるるか、それとも撲殺せらるるか、いずれにしても人に捕えられたる以上は、もがいても、あせっても、泣いても、叫んでも、熊としての天分を全うする能わざるべしと、本人の小熊は知らざるべきが、人から見れば憐れ也。人とても、無形の鎖に繋がれて、もがきあせり、泣き、叫ぶは、なお一層憐れなりとて、暫《しば》し見物す。目には小熊を見、心には人を見る也。中愛別に午食して、留辺志部《るべしべ》の旅店に投ず。人家四、五十相接し物売る店もありて、附近に農家散在す。石狩川平原の中を貫き大雪山の数峰面に当る。石狩川は下流に石狩平原を有し、中流に旭川平原を有し、上流に留辺志部平原を有す。留辺志部平原が、石狩川の有する最後の平原にして、これより、いよいよ山の中也。比布より下愛別へ三里、下愛別より中愛別へ一里半、中愛別より留辺志部へ三里半、今日は八里の路を歩けり。
真勲別に至りて、山の根に取りつき、
前へ
次へ
全23ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大町 桂月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング