れば、苦しきことなく、疲れもせず、持久力を失わずして、風景を味うことを得べし。口に氷砂糖を含まば、なお一層元気を失わざるべし、立ち留まること百回にも及びたりけむ。頂上に達して、始めて腰を卸す。頂上は尖れり。西面裂けて、底より数条の煙を噴く。世にも痛快なる山かな。大雪山の西南端に孤立して、円錐形を成し、峰容大雪山の中に異彩を放つ。眺望も北鎮岳と相伯仲す。ここにては大雪山の頂の大なることを見る能わざるが、南より西へかけての一帯の台地に、姿見の池を始めとし、多くの小湖の散在せるを見るを得べき也。
南に下り、姿見の池を右にして、渓谷の中に入る。天地は椴松《とどまつ》と白樺とに封ぜられたり。渓即ち路也。水、足を没す。膝までには及ばず。岩石あれば、岩石より岩石へと足を移す。沢蟹がおりそうなりとて、嘉助氏石を取りのけしに、果しておりたり。一同傚いて、行く行くこれを捕う。大さ一寸|乃至《ないし》二寸、身は蝦《えび》にて、螯《はさみ》だけが蟹也。この夜、渓畔に天幕を張り、これを煮て食う。旨しとは思わざるが、ともかくも余には初物也。天麩羅《てんぷら》にすれば旨《うま》しと、嘉助氏いえり。午前二時目覚む。
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