眺めて、喜びあひしが、冬の日脚低く、夜に入りて、江の島に到りて宿る。晩食の膳に大いなる鰕上りけるに、兒等いたく喜べり。
あくる日、起き出づれば、太陽將に海洋の彼方に上らむとす。日の出を見よと、二兒を呼び起す。二兒、眼をこすり/\日の出を眺めけるが、さまで喜べる樣も無し。二兒をつれて、濱邊を散歩しけるに、一艘の漁舟、沖より歸りしばかりにて、漁せし鰕、少しばかり舟に有り。それを買ふ。これで少しは喜べるさま也。
朝食を終へて稚兒ヶ淵にいたる。この日の遊客にて、こゝに來れるは、我等が『い』の一番也。鮑取の男、路に要す。一人許せば、又一人來る。それに許せば、又一人來る。うるさくて、拂ひ切れず。終に一同にとらすことにす。一同齊しく海に入る。巉巖怒濤の間に泳ぐを見るが面白かるべしとは、子供の心を知らぬ親馬鹿の料簡、まだ水泳を知らぬ二兒は、さばかり面白がりもせず。やがて、數個の鮑を採りて來りたれど、さきに鰕を買ひし如くには、喜びもせず。洞窟に入りても、喜びはせざるべしとて引きかへせば、一人の男、鰕を取つて來るから、錢をくれよといふ。錢をやりて久しく待ちしに、上り來りて曰く、今日は、鰕居らず、これに
前へ
次へ
全4ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大町 桂月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング