と云ふ。『そこで一首、
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名にしおはば都の空のちりほこり
  箒銀杏の掃くよしもがな
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この歌はどうだ』と云へば、何とも答へず。
 笹塚に下りて、甲州街道を行く。酒は瓢に在り。何か肴なかるべからずとて、目を兩側に注ぎつゝ行きしに、一店に小さき干鱈あるを見付く。『あれはどうだ』と云へば、好物の干物、もとより異議なし。價を問へば、僅に四錢、白銅貨一つにて、一錢餘る。今一錢足して、干鱈と佃※[#「睹のつくり/火」、第3水準1−87−52]とを買へり。
 和泉新田火藥庫の土手を右に見て、代田橋を渡り、凡そ十町にして右折し、玉川上水を渡れば、龍泉寺あり。門前を左折し、吉田園の前を過ぎて、玉川上水の左岸を行く。櫻花列を爲す。新武藏野の櫻とは、是れ也。一に玉川上水べりの櫻とも稱す。上二三里にして、小金井の櫻に接す。小金井は山櫻、こゝは吉野櫻、種類は異なれども、櫻花、上下三四里の間に連なる。小金井の山櫻は見事也。東京附近、山櫻の見るべきは、小金井のみ也。こゝを始めとし、東京の櫻は、幾んどみな吉野櫻也。花を別にして、唯※[#二の字点、1−2−22]場所を比較
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