ともかくも山也。菅の堤の櫻を見たるついでに、必ず訪はざるべからざる處也。
 調布の停車場まで戻りたるが、日猶ほ高し。府中に至りて、大國魂神社に詣づ。こゝは武藏の國府のありたる處也。闇の祭は名にのみ聞えて、昔の樣は無くなれりと聞く。もと六所明神とて、武藏の總社なるが、今も官幣小社にて、祠殿宏壯、境内森嚴也。殊に甲州街道を横絶したる賽路長くして、大なる欅の竝木立ちつゞく。欅の多きは、武藏の特色なるが、その竝木、近くは雜司ヶ谷鬼子母神にあり、遠くは此處にありて、鬼子母神のよりも一層偉大也。その新緑の觀、殊に美也。杉の竝木は、いま日光の例幣使街道に天下一品の觀あり。欅の竝木は、恐らくは此處が天下第一なるべくや。[#地から1字上げ](大正五年)



底本:「桂月全集 第二卷 紀行一」興文社内桂月全集刊行會
   1922(大正11)年7月9日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:H.YAM
校正:門田裕志、小林繁雄
2008年8月26日作成
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