る名なり。其中にて、出船入船と名付けたるは、稍※[#二の字点、1−2−22]氣の利きたる名づけ方也。二石相竝んで、其形巨船の如く、舳艫相反せり。其傍に高さ一丈、大いさこれに稱ひたる錨あり。出船入船より思ひつきたる洒落なるべし。國割石の上より、北に足穗、加波の連山を見下し、峯上を西に下れば、女體、寶珠の二峯、突兀として天を摩すと見る間に、白雲飛び來て、寶珠嶽を呑み、將に女體峯を襲はむとす。やがて寶珠嶽に上れば、雲は今女體を包みて、山下八州の野、手に取る如く見えしが、忽ちにして、白雲また下より涌き來りて、全く下界を封じぬ。人は雲と共に動きて、遂に女體山に上る。この峯、海を拔くこと、八百七十六メートル、男體よりも六メートル高し。峯上數武の地あり。小祠を安んず。見る/\雲は重なり來りて、咫尺辨ぜず。天風倒まに我衣を吹いて、天人我に※[#「口+耳」、第3水準1−14−94]くの心地す。一句を作る。
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我れ獨り空に殘りし霞かな
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 女體山の上には、伊邪那美命を祭り、男體山の上には伊邪那岐命を祭る。其他、天照大神を始めとし、諸神を祭れる小祠相接し、その數
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