夜明けて大いに心配せしが、勘定取つて見れば、案ずるより生むが易く、勘定は一圓二十錢にて、なほ四十錢を餘しぬ。茶代は、目をつぶつて去る。
流山に來り、汽船に乘りて利根川を下らむと欲し、兩國橋までの船賃を問へば、一人前が二十三錢なりといふ。やれ/\都合六錢足らず。こゝは味醂の名所なれば、酒店に腰かけて、余は一合飮み、澤田子は五勺飮む、この代六錢なり。松戸に來りし時、正午に近し。澤田子二錢の芋を買うて午食に充つ。余は芋を好まず、二錢の駄菓子を買ひぬ。餘す所三十錢、かく儉約せるものは、市川より汽船に乘らむと思へばなり。
さて市川に來りて、船賃を問へば、一人前十三錢、はしけが二錢、二人にて丁度三十錢なり。されど、出發は六七時にして、なほ四五時を餘せり。その間、駄菓子二錢の午食では、堪へ得べくもあらねば、遂に舟行を斷念して、壽司屋に入りて、飽くまでも壽司を食ひ、汽車に乘つて歸りぬ。[#地から1字上げ](明治三十一年)
底本:「桂月全集 第二卷 紀行一」興文社内桂月全集刊行會
1922(大正11)年7月9日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:H.YAM
校正:門田裕志、小林繁雄
2008年8月26日作成
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