枝上の花、既に少なくして、滿地に白雪を布く。花も一時と、悟り顏して、去つて、板橋より新宿まで、汽車に由る。家は近けれど、濡れついでに、小金井まで、濡れにゆかむ。むかし、禹が、家門を過ぐれども入らざりしは、國事の爲め也。風流の爲に、家門を過ぐれども入らざるに至りては、風流も魔道に陷れる乎。されど、知らず、花神は如何に思ふや、否や。
この日より、小金井花見の割引切符を賣る由、張出してありければ、買はむとするに、雨の爲に、延ばしたりといふ。小金井に遊ばむには、甲州線に由りて、境に下り、小金井に出で、玉川上水を溯り、歸りには、國分寺より汽車に乘るが普通なるが、之をあべこべにしてもよし。國分寺にて下る。
國分寺より小金井の櫻までは、半里の程也。幾度も通りたる路なれど、ふと曲り路を、曲りそこなひて、何だかへんだと、小首かたむけて立てば、一老人ひよこ/\來たる。これは、小川村へゆく路也。小金井の路は、ずつと、あとにあり。されど、この邊の小路へ曲るも、花の處へは出づべしといふ。その言に從ひてゆけば、間もなく、玉川上水に出でたり。
小金井の花の區域は、凡そ二里にわたる。向島よりは長く、熊ヶ谷土手よ
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