大黒石、出船入船などの奇巌、峯上に突起す。就中《なかんずく》女体峯頭が最も高く、且《か》つ眺望最もすぐれたれど、この日は濃霧濛々として眺望少しも開けざりき。男体山には伊弉諾尊《いざなきのみこと》を祀り、女体山には伊弉冊尊《いざなみのみこと》を祀る。其外《そのほか》、頂上に摂社|頗《すこぶ》る多し。男体の一角に測候所あり。これ明治三十五年に故山階宮菊磨王殿下の設立し給へる所、筑波山新たに光彩を添へぬ。然るに、殿下今や亡し。測候所は文部省が引継げりと聞く。金枝玉葉の御身を以て、斯かる山上に測候所を設立し給ひし御志の程、世にも尊く仰がるゝ哉。殿下御在世の時、同妃殿下、登山せさせ給ひて、

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筑波根の峯に建てたるやぐらにも
 あらはれにけり君がいさをは
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 三 小田城と太田三楽

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筑波山は山しげ山しげけれど
 思ひ入るにはさはらざりけり
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 げに、古より樹木しげかりけむ。筑波山の高さは僅に三千尺ぐらゐなれど、関東平野の中に孤立せるを以て、関東にては、何処からも見ゆ。随《したが》つて、筑波山上よりは
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