を蛇の頭上に加ふれば、頭つぶれて死す。子供ども、快哉と呼ぶ。日暮れたる後、また蛙の悲鳴を聞く。小石を二つ三つなぐれど、なほ悲鳴を聞く。大なる石をなげつくれば、悲鳴は聞えずなりぬ。蛇死して蛙のがれたるか、蛇蛙共に死したるか、それとも蛇命を全うして蛙を呑み了りたるか、闇中の事なれば、知るに由なし。これ筑波の途上、親子が興じあひたるいたづら也。
 沼田村より山路にさしかゝる。林間の一路、闇さは闇し、家は無し。十六をかしらに、末の子が十一、何も見えざるに、足の疲れを覚えけむ、筑波町はまだですか、まだですか。もうぢきだ、ぢきだ、男だ。辛捧せよと呼びかはして行く程に、灯光路に当る。これが筑波町かと思ひの外、山中の一軒家也。まだ何町あるかと聞けば、もう二三町也。この闇きに、提灯《ちょうちん》なきは危し。提灯つけて送らせんといふ。田舎にうれしきは、人の深切《しんせつ》也。それには及ばずと断りて、なほ闇をさぐり、筑波町に達して宿りぬ。
 筑波に遊ぶこと、これで三度目也。在来の書物には、筑波町より頂上まで一里卅二町とあれどこの頃新しく処々に立てられたる木標の示す所によれば、男体山まで廿一町廿三間、男体山よ
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