致あるにあらず。
 水淺き浦とて、貝を拾ふもの多し。玩具のくゝり猿の如き樣して、水に俯する母の背に負はれたる赤兒、泣いてやまざるも、母は之を懷くひまなし。乳ほしきものをとあはれ也。
 浦を一周して、もと舟出せし處に來たる。松川浦の遊觀、こゝに終れり。余はこれより中村にかへらむとて、舟夫を宿にやりて、荷物をとり來らしむ。待つ間の退屈まぎれに、舟を棹さむとするに、まがり/\て、すゝまず。げに櫓三日、棹三年と云ひけむ、舟夫になるも、容易なる事にあらずと獨り笑ひき。[#地から1字上げ](明治四十年)



底本:「桂月全集 第二卷 紀行一」興文社内桂月全集刊行會
   1922(大正11)年7月9日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:H.YAM
校正:門田裕志、小林繁雄
2009年1月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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