、八重櫻相連なりて、其數三千に及ぶ。これを新武藏野の櫻と稱す。新武藏野と小金井と上下相連なりて長さ五六里とは、何と見事なものに非ずや。次に荒川土手の櫻、江北村鹿濱より千住掃部宿に至るまで、二里ばかりの土手の上、櫻の連なること千九百三十本に及ぶ。上方の半分が八重櫻にして、下方の半分が吉野櫻也。さてまた千住掃部宿より綾瀬川を渡り、鐘ヶ淵を經て、枕橋に至るまで、一里半、櫻の連なること千七百六十本、之を向島の櫻と稱す。向島と荒川土手と上下相連なりて凡そ四里、これも亦見事ならずや。次に飛鳥山の櫻、八百五十本。次に上野公園の櫻、千二百五十本。東京の櫻を賞せむとするものは、是非とも以上の六箇所を見ざるべからず。なほ櫻多き處を列擧すれば、九段の櫻が五百四十本、江戸川の櫻が三百八十本、日比谷公園の櫻が二百五十本、英國大使館前の櫻が二百八十本、芝公園の櫻が五百二十本、清水谷公園の櫻が四百五十本、淺草公園の櫻が二百三十本、山王公園の櫻が二百三十本、植物園の櫻が二百三十本、以上櫻の名所十五箇所、櫻の總數は、凡そ一萬四千本也。
 物知りの夜光命も、これには驚くかと思ひの外、『報知新聞の受賣か』と素破拔かれて、裸
前へ 次へ
全7ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大町 桂月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング